2019.11.12

宣伝会議主催、電通グループ各社協力セミナー 「Commerce Marketing Conference ~顧客体験(CX)が、ブランドの価値を変える」講演レポート

2019年7月29日に行われた、宣伝会議主催、電通グループ各社協力セミナー「Commerce Marketing Conference ~顧客体験(CX)が、ブランドの価値を変える」は6部で構成され、1部、2部ではコマースの現場から問題と解決策が提示されました。一転して、第3部のテーマはコマースの未来。今回は、登壇者のひとりである藤井氏の著作『アフターデジタル』(尾原和啓氏との共著)を下敷きにし、デジタルコマース先進国である中国の最新事例を紹介しながら、今後日本はどうしていくべきか、ひとつのあるべき姿を提示しました。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

執行役員/デジタルトランスフォーメーション部門
部門長

八木 克全

ビービット
東アジア営業責任者

藤井 保文

なぜ、いま、中国に学ぶのか?

冒頭で八木は、日本のコマースの未来を考えるために、なぜ中国の事例を知る必要があるのか、その理由を紹介しました。

ここ数年、小売業界ではD2C(Direct to Consumer)が浸透し、顧客一人ひとりのニーズに個別に応えられる産業構造への転換が求められています。つまり、これまで日本企業が築き上げてきたバリューチェーンやエコシステムといった仕組み自体に、大きな変化が求められています。これは、一過性のものではなく、これから向こう10年は続くであろう大きな変化だと言えます。

こうした前例のない変化への大きなヒントとして、藤井氏からサジェストされたのが、デジタルコマース先進国である中国の現状を知るということでした。


オフラインがなくなる状況

藤井氏は、「中国と日本の環境は大きく異なるため、中国の事例をそのまま日本に適用するのは無理」としつつ、日本が学ぶべきエッセンスは「オフラインがなくなる状況」だと指摘しました。

「中国では、オンラインとオフラインの融合が本当に進んでいて、『休日には誰も家から出ない』と言われるほどです。あらゆることがモバイルを通じて行われるようになると、いままでオフライン行動だったものがオンラインデータとして個人に紐づき、超高頻度で行動データが出てくるようになります。こういったデータをいかにして獲得し、どう活用するかが、これからのビジネスの本質です」(藤井氏)

行動データが超膨大に出てくると、ユーザー個人個人に対して、ベストなタイミングで、好きなコンテンツや商品を、その人に合ったコミュニケーション方法で提供できるようになります。藤井氏はこの状況を「中国のコマースの現状は、ジャーニーの中で偏在的に存在している」と説明しました。

出典:ビービット、電通デジタル
Zoom

具体的な事例として、中国の私企業時価総額ランキングで3位の平安保険※によるデジタルトランスフォーメーションの取り組みと、タクシー配車プラットフォームのDiDiによるデジタルに基づいたドライバーの評価の仕組みを取り上げました(詳細は、書籍『アフターデジタル』でも紹介)。

※:『時価総額で見る、中国の大企業トップ14』参照

中国工商銀行は国有銀行であるため、平安保険は私企業時価総額ランキング3位


ジャック・マーが提唱した「ニューリテール」とは?

コマースの未来を語るうえで外せないのが、2016年にアリババの創業者ジャック・マー氏が提唱した「ニューリテール」という考え方です。

藤井氏はニューリテールの本質を、「ユーザーがオンライン/オフラインを認識しなくなり、リアルとデジタルがすべてシームレスにつながる状態。コマースも、モノが売られるだけではなく、サービスや接客などを含んだ、すべてのジャーニーが設計されている形」であると説明しました。

ニューリテールへの変化が加速した中国では、産業構造が従来のメーカー主導の売り切り型モデルから大きく変化し、最上位に決済プラットフォーマー、その下にサービサー、そして、末端がメーカーとなっています。

この構造が日本にそのまま適用されるとは考えにくいとしても、「行動データで顧客の行動を知るほうが偉い」というヒエラルキーに変わった中国の現状は踏まえておきたいと、藤井氏は指摘しました。

出典:ビービット、電通デジタル
Zoom

従業員と顧客がともに満足する仕組み

日本は、収集したデータを内部で活用できる許諾がユーザーから取れている状況ではない以上、顧客データがIDで統合され比較的自由に活用できる中国と同じ方法は実践できません。「しかし、顧客データがIDで統合され活用できる状況はいつか来ることはわかっているので、今やれることを、今やるしかない」と、八木は語りました。

八木は、現状の日本で実施可能な打ち手を、SPC(サービスプロフィットチェーン)に当てはめて提示。SPCとは、従業員満足、顧客満足、企業利益の因果関係を示したフレームワークですが、とくに大事なポイントとして強調したのが、左側の従業員満足に相当する部分です。

出典:ビービット、電通デジタル
Zoom

サービスを提供する従業員が満足する。従業員ロイヤリティが形成される。生産性が上がる。スキルがアップする。サービスのクオリティが向上する。それによって、顧客満足度が上がり、顧客ロイヤリティも上昇し、売上や利益につながっていく。従業員と顧客が共通プラットフォーム上で動くことで、利益が上がる構造を作り上げることが、ひとつの解決策なのではないかという見方を示しました。

ここまでの流れを踏まえて、八木は、SPCに基づく枠組みを作り上げることで、今後は、リテールや事業会社も、サービサーになっていくとの予測を述べました。

具体的には、顧客と従業員が楽しく自律的に動く仕組みが作れた企業はサービサーになる。一方、DAU(Daily Active Users)の割合を増やし、仕組み自体を他社に公開するところはプラットフォーマーになる。そうすることで、中国とは違うアプローチで、コマースの変化を促すことができるのではないかと、可能性を提示しました。

出典:ビービット、電通デジタル
Zoom

グロースハックをベースに改革を

日本企業が取り組むべきポイントは何か。最後に藤井氏は、顧客領域からすぐできることとして、ユーザー体験の強化を挙げました。

今後は、5Gやセンサー技術の発達とともに、状況ターゲティングも技術的に可能になってきます。何かまったく新しいことをやるというよりも、いま持っている既存の接点からデータを回し、グロースをハックしていくのがよいのではないか、と提案。リアルタイムにユーザーの行動を理解する仕組みを作ることの重要性を強調しました。

出典:ビービット、電通デジタル
Zoom
出典:ビービット、電通デジタル
Zoom

また、八木は、藤井氏の話したリアルタイムにユーザーの行動を理解する仕組みは、従業員に対しても導入されるべきと提言。顧客領域、従業員領域の両方でユーザー体験を強化していくことが、コマースの強化につながると指摘しました。

八木は、「実際にやるとなると時間もかかるし、大変なことですが、中期的な目標を設定しつつ、まずは足元から始めてみるのが重要」と語り、今回の講演を締めくくりました。

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