2019.09.30

デジタルトランスフォーメーションに"アジャイル"が欠かせない3つの理由

進化するテクノロジー、迫り来るディスラプター(破壊者)の脅威、生活者のニーズや行動様式の変容――企業を取り巻く環境が大きく変化している今、多くの企業がデジタル世紀に即した姿に会社の仕組みをリデザインすべく、デジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。

その取り組みが成功するか、失敗するか。カギとなるのは、プロジェクトの進め方です。デジタルトランスフォーメーションを実現し、その果実を手に入れるためには、どのようにプロジェクトを進めればよいのでしょうか。

私たち電通デジタルでは、アジャイル開発のアプローチが必要不可欠であると考えています。

本稿では、デジタルトランスフォーメーションのプロジェクトを進めるにあたって、"アジャイル(すばやい、迅速な)"という考え方が重要であることを、電通デジタルの支援事例をもとに解説します。

※所属・役職は記事公開当時のものです。

デジタルコンサルティング事業部
事業部長

高田 晴彦

デジタルコンサルティング事業部
マネージャー

有川 慎一朗

ジタルコンサルティング事業部
データ戦略グループ

馬場 望

デジタルトランスフォーメーションとアジャイル

デジタルトランスフォーメーションとは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という概念で、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授により提唱されました。

一方、企業にとってのデジタルトランスフォーメーションとは、デジタルテクノロジーを活用して、企業の「仕組み」や「マーケティング」、さらにはビジョンやビジネスモデルといった「戦略」そのものを変革していくという意味合いで用いられます。

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ここで重要なのは、デジタルトランスフォーメーションは、デジタライゼーション(デジタル化)とはまったく異なる概念だということです。

従来のテクノロジー活用であるデジタライゼーションは、既存のニーズや不便をデジタルで置き換えたり、効率化したりすることが中心でした。私たちが慣れ親しんでいる仕事の進め方は、このようなプロジェクトを通じて発達し、成熟してきたことに着目すべきでしょう。

しかし、デジタルトランスフォーメーションでは、テクノロジーが生活者の新たなニーズを創出し、生活者の行動様式そのものをどんどん変えていきます。必然的に、何にどう取り組むか、その範囲や内容、そして目的すらも非連続に変化し続けるのです。

新規テクノロジー、新規ニーズ、新規用途――デジタルトランスフォーメーションにつきものであるこのような要素は、プロジェクトの失敗確率を高めるリスク要因として、デジタライゼーションに慣れ親しんだ多くのSI企業が忌み嫌います。しかし、失敗を避け、リスクをできるだけ小さくしようとする進め方は、デジタルトランスフォーメーションを頓挫させる大きな要因となる可能性があります。

デジタルトランスフォーメーションは、正解のない未踏領域へのチャレンジです。トライアンドエラーは成功するための必要条件となります。したがって、失敗することを前提として巧みに組み込んだ進め方である"アジャイル開発のアプローチ"が不可欠なのです。


アジャイル型とウォーターフォール型

すばやく失敗して改善を加えていくアジャイル開発は、ソフトウェア開発ではよく利用されてきたアプローチです。流動的なユーザー要件に対して、短い期間でスピーディに、部分的で小さなシステムを作り、そして、改善をしながら完成度を高めていく方法です。

アジャイル開発のアプローチは、変化を取り込んで軌道修正することが容易です。仮に失敗をしたとしても、その影響範囲を局所的にとどめることができます。むしろ失敗を前提条件として組み込んでいる点が、従来の進め方とは大きく異なる点と言っていいでしょう。

一方、従来のデジタライゼーションや多くのITプロジェクトは、一般に"ウォーターフォール型"という開発アプローチで進められてきました。

ウォーターフォール型は、活用目的・範囲・内容を明確化し、設計を行った上で、機能・データ・インフラなどの仕様に落とし込んでいく、逐次的な開発プロセスです。フェーズを区切り、段階的に進めることで、リスクを極小化していくことを狙います。

しかしながらこのような進め方は、スコープや要件が流動的なプロジェクトには相性が悪く、度重なる手戻り、ひいてはコスト・期間の膨張を招きかねません。とくに、

  • ある工程が完了してはじめて次の工程を進める
  • 後戻りをしないことが前提
  • すべての要件を決め切らないと進めない

といった点がデジタルトランスフォーメーション領域での開発プロジェクトに適さないと言われています。

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"すべては計画可能であり、段階的に進めることで確実性を上げる"というウォーターフォール型の考え方では対応できない、デジタルトランスフォーメーションのプロジェクトには、アジャイル開発のアプローチが必要不可欠であると、私たち電通デジタルでは考えています。


動画配信サービス「Paravi」の事例より

それでは、アジャイル開発のアプローチは、実際にどのように事業課題の解決に役立つのでしょうか。ここでは電通デジタルがご支援した「Paravi」の事例から、そのポイントを考察していきます。

DMP(データマネジメントプラットフォーム)構築の必要性

「Paravi」は株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパン(以下、PPJ)が提供する有料動画配信サービスです。日本最大級の国内ドラマアーカイブなど、魅力的なコンテンツを多く抱えた先進メディアとして、2018年4月の開始以降、順調に加入者数を伸ばしています。PPJでは、この「Paravi」のために、DMP(データマネジメントプラットフォーム)を構築することを、サービスローンチ前から重要な打ち手として企図されていました。

(出所)プレミアム・プラットフォーム・ジャパン
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有料動画配信市場は、近年成長が著しい領域ですが、海外の大手プラットフォーマーを中心とした競争も激しくなっています。

このような事業環境では、いかに仮説を迅速に市場に投入し、戦況を見ながら柔軟にビジネスモデルやサービス・コンテンツを変えていくかが、事業の成否を左右します。すなわち、データに基づくスピーディな意思決定とサービス運営の実現が、重要な戦略命題でした。

加えて、新規獲得、利用促進、解約抑止、商品・サービスの見直しなどにおいて、データに基づく実態把握と意思決定は極めて重要な役割を果たします。

また同時に、サービスを通じて蓄積される、ユーザーの嗜好性やコンテンツへの反応などを、データが乏しかった従来のテレビビジネスの世界に活用していくことも、会社設立の大きな狙いでした。

視聴履歴・会員属性・サービス利用・広告接触といったさまざまなデータを、会員登録前か後かを問わず一元管理し、新規獲得や維持施策のPDCAを回す基盤――-DMPはこのような理由から必要とされていたのです。

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DMP構築の課題

ところが、この状況においてDMP構築を進めようとするプロジェクトは、いくつかの大きな課題を抱えることになります。

第一の課題は、時間とリソースの制約です。スタートアップでリソースも限られている中、ローンチに向けて何よりも優先されるべきはサービスとコンテンツの準備であり、社内インフラ構築には多くのリソースを割けません。クライアントであるPPJと一体/一部となって推進できるプロジェクト体制が求められていました。

第二に、要件のスコープも内容も不明確であることです。サービス自体がリーンに始めて大きく育てていくことを念頭に置いていたため、どのようなデータが得られるかは、順次立ち上がっていくサービスに多くを依存します。したがって、あらかじめ要件の全貌を明らかにすることは意義が乏しい状況でした。

第三に、前提仕様が次々と変わっていくことです。とくに初期段階では、データの入力仕様や、アウトプット要求は日々変わっていきます。そのために必要なのは、発生するやり直しや手戻りをどうやって抑え込み粛々と開発するかではなく、可能な限り早い段階で成果物を生み出し、フィードバックを得て改善していくような、変化対応力のある開発アプローチでした。

アジャイル開発のアプローチ

先に説明したように、このような課題の解決には、従来の"ウォーターフォール型"の開発アプローチを適用することはふさわしくありません。そこで、電通デジタルでは、アジャイル開発の一手法である"スクラム"による開発アプローチでDMP構築を行うことにしました。スクラムは、短期間・小規模な開発フェーズを反復的に実施するのが特徴です。

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"スクラム"はチーム体制に特徴があります。俗に"ピザ2枚のチーム"と言われるような少数精鋭の「開発チーム」と、クライアントが担う「プロダクトオーナー」、そしてその仲介役として円滑にスプリントを回す「スクラムマスター」らが文字どおり"スクラム"を組むかのような、一体型のチームを編成します。

このチームで、スプリントと呼ぶ1~2週間の開発期間を単位として、小規模な開発を繰り返し実施していきます。まずは、データレイク・DWH(データウェアハウス)といったインフラ整備を先行させ、データの蓄積が可能になるようにスモールスタートします。データが溜まりだした段階から、簡易的な分析を実施し、ユーザーからのさまざまな意見や要望を吸い上げていきます。可視化の要望や優先度が見えてくると、最適な構造にインフラを修正。また"型"が決まったものはBI・ダッシュボードとして構築。ついでMAツールを中心とした外部ツールへのデータ連繋といったように、徐々に活用範囲を広げ、レベルを高めていったのです。

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こういった進め方をとることの優位性は、早期にアウトプットが得られ、それによってユーザーのフィードバックを獲得できることにあると言えるでしょう。

やりたいこともやるべきことも見えていない状態で、机上で全容を明らかにしようとしても、答えを得るころには、もう前提条件は変わってしまっているはずです。それに対し、早期にフィードバックを獲得できれば、軌道修正も容易です。また、アウトプットを提示することは、ユーザーの潜在ニーズの引き出しにも効果的に作用するでしょう。つまり、実践こそ最良の要件定義である、ということになります。

このように、アジャイル開発の一手法である"スクラム"を採用し、最適なプロジェクトの進め方をとった結果、要件がない状態から、極めて短い期間でのDMP構築が可能になりました。


アジャイルが欠かせない3つの理由

「Paravi」の事例で見られた3つの課題は、デジタルトランスフォーメーションのプロジェクトには共通して見られる課題です。ここでもう一度整理しておきます。

  1. 時間とリソースの制約が厳しい
  2. 要件の内容やスコープが不明確
  3. 前提の仕様が次々と変わるなど、環境変化が激しい

伝統的なIT活用の取り組みでは"悪"とされたこれらの課題に、巧みに対応していくことができなければ、プロジェクトの成功は危ういものとなります。こうした課題を抱えるデジタルトランスフォーメーションのプロジェクトには、アジャイル開発のアプローチが必要不可欠であると、私たち電通デジタルでは考えています。

これまでは、アジャイル開発はサイトやアプリ開発など、限定的な領域で取り入れられてきましたが、これからはインフラ領域などでも、全面的に取り入れていくことがプロジェクト成功の重要なカギとなっていくでしょう。

すばやくチャレンジし、すばやく失敗するための2つのスプリント

私たち電通デジタルでは、アジャイルを単なる開発の方法論とは考えていません。「すばやくチャレンジし、すばやく失敗する」ことは、マーケティング、さらに事業戦略に求められる精神そのものとなっています。

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つまり、システム開発の世界で発達してきたアジャイルの手法を、デジタルトランスフォーメーション全体の推進に適用していくべきだと考えています。アジャイルで推進するべき領域を、マーケティングの企画や施策の実行まで拡張していくことが重要です。

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短期間に開発を回し、マーケティングに武器を供給する"テクノロジースプリント"。

高速にPDCAを回し、トップラインを高めるとともに、新たなテクノロジー要件を明確化する"マーケティングスプリント"。

このように、2つのスプリントが交互にぐるぐる回ることで、企業のデジタルトランスフォーメーションは大きな推進力を得ることになります。

もちろん、アジャイルも万能の方法論ではありません。事例で見られたように、このような方法論の実践に適したチーム体制を整備することができなければ、2つのスプリントがうまく駆動することはありません。そのためには、チームのメンバーがマーケティングのスキルだけでなく、テクノロジーにも精通することが不可避です。マーケティングとテクノロジーを横断した専門性を持つ、"デジタル人材"をどうやって企業内に確保・育成していくかが重要なポイントとなるでしょう。

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