2018年12月07日

デジタルトランスフォーメーション

コラム

マーケティングのデジタル化を目指し、新年度に新しい組織が立ち上がる光景は企業でよく見られます。三井住友トラストクラブは、年度の途中からマーケティングの高度化戦略を目指してデジタル化を進めるうちに、最終的に短期間で新組織発足にまで至りました。日本でもっとも歴史のあるクレジットカード「ダイナースクラブカード」で知られる三井住友トラストクラブが、どんな組織改革を行ったのか。電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスマーケティング事業部の外山遊己が聞き手となり、実際に組織を動かした三井住友トラストクラブ マーケティング本部 副本部長の井上聡氏、マーケティング本部 マーケティング第2部 部長の團野弘祥氏に話を伺いました。

自分たちのマーケティング手法が正しいと思えなかった

  • 三井住友トラストクラブ マーケティング本部 副本部長 井上聡氏

三井住友トラストクラブが行うマーケティングのデジタル化には、電通デジタルが「顧客コミュニケーション高度化プロジェクト」と銘打ち、協業の形で参画しました。実際にプロジェクトに入り、会場のファシリテーターも務める外山は、「ダイナースクラブカード」が抱えていた課題を次のようにまとめました。

【プロジェクトで示された3つの課題】

  1. デジタルメディアの対応が遅れ、各種接点の構築・活用が中途半端

  2. 認知から獲得までの各ファネルにおけるKPI、PDCAの再定義が必要

  3. エンゲージメント向上のために、コミュニケーションへのデジタル活用、高度化が必要

さらに外山ら電通デジタルの面々がヒアリングをしていくと、「ダイナースクラブカード」の顧客とは「認知獲得・ブランディング」と「申し込みの獲得」にそれぞれ個別にコミュニケーションしており、「部署・施策ごとに異なるKPI」を社内が抱え、「デジタルを含めたメディア戦略の再設定」を求められる現状が浮かび上がりました。

井上氏は当時の現状を「恥ずかしながら、ブランド認知度アップが会社の収益のKPIとどうリンクするのかわからないなど、各部署の持つ悩みや課題を話し合う場がなかった。社内でマーケティングの断絶が起きていた」と振り返ります。

さらに團野氏は「同じ顧客に当てるマーケティングにもかかわらず、部署間で目的が違い、他部署との会話も上手く進まなかった」と言います。また社内のデジタルマーケティングを進めるにあたって、電通デジタルと協業したことについて、「自分たちのマーケティングが正しいかどうかわからなかったので、公正なプロジェクトの遂行のため、外部視点を取り入れたかった」と語りました。

  • 三井住友トラストクラブ マーケティング本部 マーケティング第2部 部長 團野弘祥氏

顧客が自社メディアではなく、外部サイトでサービス確認をしていた衝撃

三井住友トラストクラブのプロジェクトは約3ヶ月間で、大きく分けて以下の4ステップで進めました。

  1. 顧客理解
    →カスタマージャーニーを描き、顧客行動と気持ちの理解を深め、顧客体験上の課題を抽出

  2. 体験・チャネル評価
    →現状の施策やチャネルが、顧客行動や気持ちのニーズに対応しているかを確認・評価

  3. 改善施策検討
    →不足している接点や体験上の課題への改善施策を導出し、優先順位付け

  4. プロセス・体制設計
    →顧客体験、新たな施策やチャネルをマネージメントしていくためのプロセス・体制を検討

プロジェクトを進めていくと、若年ターゲットである30代の顧客は、クレジットカードを調べる際、オウンドメディアではなく第三者が作った外部サイトを情報源にしていました。ネット検索に対応した詳細情報がオウンドメディアに必要だったにもかかわらず、ステータスの高いカードというイメージを訴求していたこともあり、ターゲットに伝わりづらいカードになっていたわけです。

さらに新たなマーケティングを各部署横断の定例会議で運用し、ターゲットがどのチャネルをどう動いて申し込みに至ったのか、部署同士で連携、評価、共有をくり返したのです。

「顧客がオウンドメディアのコンテンツを見ずに、外部のウェブサイトに検索をかけにいって情報を取っていたことがわかった時は、愕然とした」と話す團野氏。「顧客は欲しいサービスをピンポイントに、しかも丁寧に検索をかけていた」ことに驚きを隠せなかったと言います。井上氏は「今回作成したカスタマージャーニーに照らし合わせ、ステップごとに検証すると、弊社に足りていない部分がかなりある。ものすごい危機を感じた」と付け加えました。

新たなマーケティング組織の立ち上げの経緯は?

プロジェクトの当初の目的は、デジタルマーケティング戦略の構築や新たなKPIの設定などでしたが、結果として短期間でマーケティング新組織ができました。

その理由を井上氏は「理想のマーケティングを実現するには、やはり一気通貫した組織で取り組むべきだから」と語ります。経営陣に対しては、デジタルネイティブ顧客の意思決定のスピードに対応するために、「部署を通貫する会議体で進める案」と「新組織を作る案」の2つを提案。現状の分断された組織ではターゲットのニーズに答えられていないこと、各部署がそれぞれのKPIに縛られ、中間ファネルで部署ごとのお見合いが起き、しっかりとした対応ができていない問題も鑑み、経営トップが新組織発足に舵を切りました。

経営陣からのトップダウンで組織体制を見直し、業務プロセス、KPI設計を変える。多くの企業が採用する流れです。

  • トップダウンによる組織改編のケース

しかし今回のように、現場からマーケティング課題を抽出し、その解決のためにKPI設計、業務プロセスを設定し、組織を変えるのは極めて珍しいケースです。

  • ボトムアップによる組織改編のケース

ボトムアップ方式で組織改革したポイントを、團野氏は「『絵に描いた餅』にならないよう実行することを前提としたカスタマージャーニーを描いた。するとA部署とB部署の連携がないために、ジャーニーの一部が途切れていることが分かる。そこをつなげるために後から機能を定義づけるという課題達成のプロセスの中で必然的に新組織発足の流れとなった」と語りました。

  • 電通デジタル デジタルトランスフォーメーション部門 サービスマーケティング事業部グループマネージャー 外山遊己

現場から組織改革を行う際、大事にしたことは

ファシリテーターの外山は、協業のオリエンテーションの場で「このプロジェクトは勉強しただけで終わってしまってはいけない。必ず実行まで持っていき、形として落とし込む」と、三井住友トラストクラブの強い想いを感じたと言います。そのために社内で必要なのは、経営陣の説得。井上氏は時間をかけて丁寧に説得しました。

「デジタル領域の話は、英語やカタカナ言葉が出てくる頻度が多い。現場では普通に使われる言葉でも、経営陣を説得する際はカタカナ言葉をやめて、誰にでも理解できる平易な言葉を使って共通理解を一つずつ作る。今は組織ができたので、一緒に働くチームの人間に対しても共通理解が必要。チームのミッションをわかりやすい言葉で表現するよう気をつけている」。

さらに團野氏は、顧客獲得までのマーケティングのプロセスにおいて、貢献、中間、間接貢献とあるなかで、見落とされがちな中間、間接貢献チームの面々が企業全体のKPIに寄与していること、報われていることを実感してもらう必要があると語る。「直接、顧客獲得の部署でなくても、顧客の心を揺り動かした前段のチームの人たちも会社から評価され、『戦略として正しいことをしている』と証明しなくてはいけない」。

そこに井上氏は「共通のKPIを持つことで、各部署の気持ちの変化が如実に表れてきた。どんなに予算があったとしても、働く人の意識に気持ちが向いていなければ、獲得効率は上がらない」と付け加えます。現在、三井住友トラストクラブは、チーム内でソリューションに対する意見を気軽に言い合える環境になりました。組織の一気通貫をすることは、コミュニケーションを一気通貫にすることなのです。