電通報対談「広告の未来とは」完全版 「これからのデジタル時代は、AIやVRの活用でいままでにない広告の可能性が開ける」米WIRED創刊編集長 ケヴィン・ケリー氏×電通デジタル代表取締役CEO大山俊哉 電通報対談「広告の未来とは」完全版 「これからのデジタル時代は、AIやVRの活用でいままでにない広告の可能性が開ける」米WIRED創刊編集長 ケヴィン・ケリー氏×電通デジタル代表取締役CEO大山俊哉

雑誌「WIRED」創刊編集長をつとめ、現在はサイバーカルチャーの論客として世界をリードするケヴィン・ケリー氏が、新著「<インターネット>の次に来るもの」(NHK出版)の上梓にあたり来日いたしました。本記事では、電通デジタル代表取締役CEO 大山俊哉との対談の模様をお届けいたします。

大山:ケリーさんの新著『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』を非常に興味深く読ませていただきました。特に私にとって、現在のデジタルやネットのテクノロジーが産業革命に匹敵するような時代の大きな変化の変節点を引き起こし、これから何十年もの長い期間に渡ってそうした変化が続くというご指摘には、大いに感銘を受けました。

大山俊哉

ケリー:それは光栄です。デジタルの世界はいま、ここ数十年の開発でネットやAI、VRといったテクノロジーの基本的要素が揃い、特に広告やブランディングの基本となる、人々のアテンションを扱うテクノロジーがいろいろ進歩するので、業界全体にも大きな変化が起きるのではないかと考えています。

大山:われわれが扱う広告の世界では、デジタルの活用で、個々のターゲットに適切なメッセージを適切な形で伝えることができるようになり、2020年ぐらいまでに、テレビやデジタルサイネージでも、こうした細かいターゲティングが可能になると思います。これは広告会社にとっては大いなるチャンスですが、その一方でデジタルによる業務の自動化やオープン化で、この業界にさまざまなコンサル会社やIT企業までが参入してきて、ひいては日本のテレビ広告で大きなシェアを持っていた弊社のような広告会社の競争力が低下する結果になることが懸念されます。ケリーさんも書かれているように、デジタルの世界は変化が急激で、ひとつひとつのソリューションが深いと感じます。やはりそうした新しい世界に対応するには新たな人材を投入する必要があって、関連会社からもデジタル分野に強い優秀な人材を集め、7月1日に800人規模で電通デジタルを設立しました。

ケリー:それは、手堅いスタートを切られましたね。この世界の動きは日進月歩で進んでいますから、すぐにでも迅速にこの分野を開拓されていくことを期待します。私はこの本の中で、いままでにないデジタル時代の新しい広告の可能性についてもいくつか触れています。例えば、あるブランドのプロダクトをインフルエンサーと呼ばれているオピニオンリーダー(例えばアカデミー賞の会場で関係者)に無償で提供してネットで広めてもらうというやり方は、すでに使われている手法です。マーケティングに投じる予算を広告会社ではなく、これまでとは別の対象に直接投じるという新しいモデルです。

もう一つ、これが実現したならば破壊的な影響があると思うのは、口コミを活用して広告を広げていく仕組みです。広告に埋め込まれたデータでその広告がどこで表示されたかがトラッキングでき、それに付随してマイクロペイメントのような支払いシステムが使われることで、その広告を掲載して広げてくれたサイトに支払いが生じるものです。Googleのアドセンスのような方式ですが、ソーシャルの力を組み込み、これまで広告がリーチできなかった場所に対しても広く広告が流れる仕組みです。広告を掲載して見られれば自動的にサイトに支払いが生じるため、サイトも積極的に広告を掲載してくれ、従来見ることのなかった人々にも広く行きわたらせることができる可能性が生じます。

もっと重要なのは、広告自体をプロばかりではなく、一般の人々までもが作り出す時代が来るということです。そんなことは現在では想像もできませんが、FacebookやYouTubeには一般人がいろいろな作品を大量に投稿しています。そうした何十億人ものファンが、自由に広告を作って流してくれる時代が来ないとは言い切れないと思います。
それらは広告会社を無視したまるで別の流れに思えるかもしれませんが、実はこうした新しい広告をキュレーションして効率よく配信するのは、小さなスタートアップ企業ではなく、大手の企業によるプラットフォームでしかできません。いずれは、Facebookやテンセントなどが手掛けるはずで、御社も考えられた方がいいのではないかと思います。

大山:われわれ広告会社は、現在はクライアントにカスタマイズしたソリューションを提供する側にいるんです。おっしゃるようなソリューションやプラットフォームは、いろいろなプラットフォーマーやスタートアップ企業と一緒になって創っていきたいと思います。

ケリー:お話は理解できますが、明確にわかることは、こうしたことを手掛けるのは一番手でなくてもいいということです。Facebookが最初のソーシャルメディアではなかったように、Amazonも最初のブックストアではなく、Googleも最初のサーチエンジンではなかったわけです。必ずしも最初に手を挙げる必要はないと思いますが、デジタル世界がその方向に向かっているという認識は持つべきですし、そういう世界になったときにどうすればいいのかということをいまから考えておくことで、今後の選択肢が見えてくると思います。

ケヴィン・ケリー

大山:そうですね。そうした流れがあることはよく理解できました。ケリーさんも本の中でかなり書かれていますが、今後のことを考えると私が一番関心を持っているのは、現在話題が沸騰している人工知能(AI)の可能性なんです。大手企業が開発中のAIソフトは、話題が先行するもののまだ十分な性能に達していないかもしれませんが、まずは広告の配信をするときに、その広告を本当に求めている人を探し出して的確に届けられるようにすることに応用できないかと考えています。こうしたことが自動化されて精度が上がれば、まずは大きな効果が期待できます。さらにその先に、AIがクリエイティブの代わりをする段階が来ないかと考えています。AIにこれまでの優れたコピーやクリエーターのノウハウを学習させて、これまで人間が考えもつかなかったような気の利いた広告を作ってくれたら素晴らしいと思います。

ケリーさんは本の中で、ここ数十年で70%の人の仕事が代替されるだろうと予想されています。そうなると本当に人間がすべき仕事は、マシンができない高いレベルの専門職か、人間がさっと手掛けたほうが安くあがるような簡単な仕事しか残らなくなってしまうでしょうね。ですから広告の分野でも、これからどういう分野を人間が手掛け、マシンでどの部分を代替していけるのかについて、真剣に考えていきたいと思っています。

ケリー:広告のクリエーティブに関しては、非常に非効率的で人間的な判断を多用するプロセスですので、AIがきちんと手掛けることができるようになるには何年もかかると思われます。しかし10年から20年以内には、AIがアシストするようなツールができ、人間の発想を超えたいろいろな選択肢を提示して、その中から人間が最適なものを選べるような世界は来ると思います。

一方で、データをマッチングするようなプロセスでは、5年以内にはAIを使えるようになるでしょうね。広告を見ている人の好みに合わせてパーソナライズしたり、行動を自動的にトラッキングしてターゲティングしたり、あるいは見ている人のアテンションに合わせた広告の出し方を開発したり、あるいはインフルエンサーがネット上に存在する様子をマッピングしたりするといった、人では手間がかかり過ぎる仕事には早晩関わってくると思います。

現在出回っているAIのソフトはIBMのワトソンのような構造化した複雑なプロセスを使うものや、Googleや百度などのしらみつぶしにフラットにデータ処理をする様々な方式のものがあります。こうしたAI機能はすでにクラウドで販売されており、アカウントを開設すれば誰でも購入して使えるようになっており、すぐにでも実験を始めることが可能で、おまけにそのための特別な技量も必要ありません。今後どういう方式がどういう分野に優れているかを見定めるためにも、いろいろな種類のAIサービスを試してみるのがいいのではないでしょうか。

大山:いろいろな方式があるのですね。これから検討してみたいと思います。
ケリーさんは今後のデジタル化の中で、AIに次いで、バーチャル・リアリティー(VR)についても強調されていましたが、この分野も広告の分野でも使われるようになるとお考えですか。現在はドライブのシミュレーションや部屋のバーチャル内覧用といった程度しか使われていないような気がしますが。

ケリー:VRはかなり実用的なものができています。FacebookがVRのヘッドセットを作るオキュラスを20億ドル出して買収したり、VRと現実の風景を重ねる複合現実(MR)技術を開発するマジックリープ社がアリババ系のクラウドファンディングで8億ドル近い資金を調達したりと動きが活発で、業界では大きな話題になっています。大手のネット企業は、VRが未来のソーシャルプラットフォームの鍵を握っていると考えているからです。

現在はまだヘッドセットなどのデバイスが十分な数は販売されておらず、みんなが求めるようなコンテンツができていないという問題をかかえており、現状ではVRで広告を打つまでは行っていません。しかし、10年以内には普及して、文化の中にしっかりと埋め込まれていると思います。そういう方向に向かっていることは念頭に置いておくべきでしょう。

大山:なるほど、やはりコンテンツが大事になるんですね。VRがメインの話ではないのですが、最近日本では、イギリスの動画配信大手のパフォーム社がJリーグの放送権を買ったという報道がありました。テレビだと見られる場所や時間が決まっているし、全試合・全チームのカバーはできないのですが、スマホを前提とした配信だったらどこでも、どんな状況でもコンテンツを届けることができます。VR映像のように、選手が胸元にカメラを装備して迫力のある映像を撮り、それを個別にスマホで配信できるようになれば、従来よりも高額な放送権に見合うだけのコンテンツができる可能性があるということですね。

ケリー:おっしゃるように選手にカメラをつけたり、いろいろな視点で映像が見られるようになって、それを皆がレビューしたり、友人とシェアしたりということがつながっていって、インタラクションが増えてくることによって、新しい価値が生まれると思います。VRというのは、そういったインタラクションを増やす方法なのです。全身を使うことになり、あるいは顔の表情や感情などがどんどん要素として使われて非常に強力なインタラクションが起こることで、より多くのアテンションが生まれて、そうしたことが広告の新しい手法や可能性にもつながっていくと思います。

現在世界中で話題になっているポケモンGOは、大変シンプルな形でVRを普及させた立役者だと思います。シンプルにスマホを使うだけで、新しいインタラクションを開拓し、皆がそれを持って町中に出て行って使うことで、こうしたイノベーションが起きるきっかけになっています。こうした世界に新たに広告も進出していくことが可能になっているのですから。

大山:そうですね。ネットの世界のビジネスモデルは、まだGoogleもFacebookも広告を基本にしています。おっしゃるように、いろいろな配信の仕方だとか、表現の仕方とか、アテンションの捉え方などをちゃんとすれば、広告はまだ非常に伸びるチャンスがあると確信しました。
デジタルの変革というのは、これから何十年も続くと覚悟をしています。電通デジタルの社員は若い人が多いので、彼らがこれからの10年から20年をちゃんとやっていけるよう、今日お聞きしたことを伝えていきたいと思います。どうもありがとうございました。

ケヴィン・ケリー(Kevin Kelly)

1952年生まれ。著述家、編集者。1984~90年までスチュアート・ブラントと共に 伝説の雑誌ホール・アース・カタログやホール・アース・レビューの発行編集を行い、93年には雑誌WIREDを創刊。99年まで編集長を務めるなど、サイバーカルチャーの論客として活躍してきた。現在はニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、サイエンス、タイム、WSJなどで執筆するほか、WIRED誌の<Senior Marverick>も務める。著書に『ニューエコノミー 勝者の条件』(ダイヤモンド)、『「複雑系」を超えて』(アスキー)、『テクニウムーテクノロジーはどこへ向かうのか?』(みすず書房)など多数。

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