―顧客の気持ちを業務プロセスに落とし込む―
デジタル時代のマーケティング業務革新を成功させるヒント

デジタルトランスフォーメーションセミナー:講演レポート②

株式会社電通デジタル
デジタルトランスフォーメーション部門 サービスプロセスデザイン事業部 事業部長
魚住 高志

データマネジメントプラットフォーム(DMP)やマーケティングオートメーション(MA)など、先端的なツールを取り入れたものの、成果を出せないと悩む企業は少なくない。課題はサービスデザインとデジタルマーケティング基盤の融合。サービスプロセスデザイン事業部 事業部長の魚住高志が、マーケティング革新を成功に導く視点を示した。

「デジタルトランスフォーメーションでよくある障害」を解消する

デジタルトランスフォーメーションは企業に不可避な取組みだが、「デジタルはIT部門の仕事」「対面営業中心だから関係ない」と他人事のように静観する従業員は少なくない。一方、デジタルマーケティングに取組んでいる企業からも、「カスタマージャーニーやペルソナをつくったけれども活用できていない」「データマネジメントプラットフォーム(DMP)やマーケティングオートメーション(MA)、人工知能(AI)を導入したものの、個客情報がなく、使えなかった」という声が聞こえてくる。

魚住はこうした「デジタルトランスフォーメーションを実現する上でよくある障害」を3つにまとめ、それぞれを解消するヒントを説明した。

  1. 1. デジタルトランスフォーメーションを組織の壁が阻害する
    →組織の壁は“データ循環”で乗り越える
  2. 2. カスタマージャーニー、ペルソナ、MA、DMPなどをつくっても死屍累々
    →顧客理解は属性把握から“状況察知”へ
  3. 3. 個客情報はコストをかけて取得しなくてはならない
    →良質な体験を提供する“主客一体”サービス

第1に魚住が指摘したポイントは「組織の壁を乗り越える際にはデータ循環がカギ」。今ではメーカーや販売店という組織を超えてシステムやデータ、業務がつながっている産業が多い。その中でデジタルマーケティングを遂行しようとすれば、デジタル広告を仕掛ける広告・宣伝部、ユーザーとの関係を構築し維持するCRM・デジタルマーケティング部、リアルチャネルでの販売を支援する営業企画部といった3つの部署が関わることになる。

それぞれの部署が利用するシステムは異なり、広告・宣伝部は外部データを蓄積したパブリックDMPを、CRM・デジタルマーケティング部は見込み客情報を集めたプライベートDMPやMAを、営業企画部は既存顧客情報を蓄積した顧客管理システムや営業管理システムを中心に活用している。部署間には組織の壁があり、データを共有したり、そこから業務や仕組みを連携したりすることは少ない。

だが、営業企画部が持つユーザーの来店・商談状況などの対面データは、広告・宣伝部やCRM・デジタルマーケティング部がプランニングする上で有用だ。逆に広告・宣伝部が持つライフスタイル変化や競合商品への関心などに関する外部データや、CRM・デジタルマーケティング部が所有する閲覧や利用の履歴データは、営業企画部が顧客情報や営業情報を管理する上で重要となる。「これらのデータの共有、連携をモチベーションとすることが組織の壁を乗り越える手段となる」と説明する。

「生け簀(す)」でいち早く予兆を察知する

第2のポイントとして、「真の顧客理解には、『どんな状況に置かれているか』『どんな課題を抱えているか』を探ることが重要」と魚住は指摘する。画一的な属性ではなく、今置かれた状況を察知し、リアルタイムでコミュニケーションを取ることこそがマーケティングの核となるというのだ。

そのひとつの事例として、ある損害保険会社から届いたメールを紹介した。翌日に天気が大荒れになる予報だったことから、万一、車両に被害があった場合には車両保険が適用できる可能性があることを示した。このメールを見た顧客から保険金の申請が増えれば、その損保会社は一時的に支出が増える。だが、顧客の損保会社へのロイヤルティは確実に向上するはずだ。この損保会社はロイヤルティを図る指標であるNPS(ネット・プロモーター・スコア)や業績の変化まで推計した上でメールを配信しているという。

こうした取組みを行うには、常に顧客の状況を察知できるマーケティングプロセスをつくることが重要となる。魚住が勧めるのは、既存客、見込客を「生け簀(す)」のように常に状況を察知できる環境下に置くこと。自社の個客IDと他のパブリックDMPのユーザーIDとを連携させ、「結婚や転職」「競合商品への興味」「自社商品の代替」といった予兆を察知できるようにする。予兆を察知したら、それぞれの個客に多チャネルでアプローチする。

このマーケティングプロセスの効果は大きい。あるケースでは会員情報の70%を外部IDと連携したところ、全体の15%の状況を検知でき、クリック率は通常の5倍、来店率は2.4倍、接客効率1.2倍、成約率1.3倍などの成果が出たという。

お金を出さなくても個客データは取得できる

第3のポイントとして魚住は「良質な体験を提供するには、顧客とサービス提供企業が一体となって一種のエコシステムを形成し、良いサービスの循環をつくることが必要」と話す。

その事例として示されたのが、あるフラワーマーケットのサービス。ここではオンラインショップで商品を購入する際に、配偶者の誕生日も登録する必要がある。そのデータをもとにフラワーマーケット側は誕生日の1週間前にリマインドメールを送り、注文につなげる。一方の顧客は配偶者の誕生日に忘れずに花束を用意できる。こうした主客一体サービスを実現できれば、お金をかけずに個客の有用なデータを取ることが可能だ。

日々、クライアントとともにデジタルマーケティングに取組んでいる魚住は、現場に様々な壁や課題が存在していることを実感するという。デジタルトランスフォーメーションを実現するには、その壁を乗り越え、課題を解決していくことが不可欠だ。講演で示した3つのヒント以外にも、従来の発想にとらわれず、柔軟にアイデアを膨らませ、選ばれ、喜ばれるサービスの仕組みをつくっていくことが重要であるとした。

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