2022.07.29

メーカーが考慮すべきデータマネジメントとは︖

D2C(Direct to Consumer)モデルの企業が勃興し、メーカーと小売店によるこれまでのサプライチェーンとは異なる売り方が生活者から支持されるようになっています。こうした中、これからメーカーが目指すべきD2Cモデルの姿と、メーカーならではのデータ基盤の構築について、電通デジタル 高橋司が解説します。

大手メーカーが倒産!その背景にD2Cスタートアップの影響も

まず、メーカーを取り巻く環境の変化を見てみましょう。下図の左側は小売店におけるプライベートブランド(PB)の売上規模を示しており、2017年時点で約3兆円に達していることがわかります。小売店がPBを他のメーカー製品よりも安く販売することで、市場規模が拡大しています。

そして下図右は、D2C市場規模の推計と予測です。D2Cとは、「流通業者を通さずに、開発した製品を直接顧客に届けるビジネス」で、2025年には3兆円の市場規模に達するとも見込まれています。

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D2Cの勃興を感じる北米の事例を紹介します。2018年10月、全米に3,272の店舗を持っていたマットレス小売最大手の「Mattress Firm」が倒産しました[1]。この倒産の要因の一つと考えられているのが、2014年創業のD2Cブランド「Casper」です[2]

Casperは実店舗を持たず、ユーザーはマットレスの選定、購入から配送まで、すべてオンラインで完結できるようになっています。店舗がない分、製品の価格が抑えられています。WebサイトのUI/UXが優れていることに加え、ウェルネスについて特集する雑誌「WOOLLY」の発行[3]、ポッドキャストなど、情報発信にも力を入れています。なお、一般的にマットレスは大きいので配送料がかさみがちですが、Casperのマットレスはコンパクトなパッケージに収納されていて、開封するとマットレスが膨らむような工夫がされています。

Casperは製品開発にも一工夫しています。1万5,000人のモニターのベッドにIoTセンサーを設置してデータを収集し、それをもとにプロダクト開発を行っています[4]

北米では、既存の小売業がD2Cに参入する事例もあります。Walmartは2019年、自社ブランド「Modrn」を作って家具などのオンライン販売を開始しました[5]。店舗での販売前に顧客とデジタルでつながり、データを収集した上で、店舗で販売するエリア、オンラインのみで販売するエリアを決定しています。店舗で販売する場合は、ブランドの世界観が伝わるように展示の仕方を工夫しています。つまり、既存の店舗の強みとデータをかけ合わせながら、販売戦略や製品プロダクト、マーケティングを推進しているのです。

2つの事例の共通点として、自ら商品を開発し、直接顧客とつながって関係を構築している点があります。店舗やWebサイトなどのタッチポイントで、一貫した世界観とストーリーをコンテンツとして顧客に提供し、顧客はその世界観に共感します。共感した顧客は商品を購入しフィードバックします。企業はそのフィードバックを基に製品をブラッシュアップして、マーケティング戦略を考えるという一連の流れになっています。

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メーカーと小売店との関係は今後どう変わっていくのか?

現状では売り上げの大部分が小売店経由というメーカーも多いでしょう。ECサイトでの直販を開始しているメーカーもありますが、まだ売上比率は大きくないことがほとんどです。小売店依存の現状は、メーカーにとって3つの課題があります。

・顧客データの喪失
販売チャネルから顧客データを得られない

・ブランドの世界観の毀損
多数のメーカーの商品を扱う小売店では、店舗の都合で売り場を作るので、ブランドのコンセプトや提案したいライフスタイルが伝えきれない

・ユーザー体験の毀損
店舗によって接客が異なり、本来伝えるべきであるメーカーの思いは伝えられないので、ユーザーは情報が不十分のまま選択している

では、今後メーカーはどのような対応が必要でしょうか。まずは、顧客との接点を作り、自分たちの提案するライフスタイルやストーリーを共有し、共感してもらいます。D2Cは、消費者との関係を構築する基盤になります。

同時に小売店との関係も無視できません。広大な北米と違い、日本は国土が狭く小売店がたくさんあり、消費者にとって利便性が高いからです。引き続き小売店は、販売チャネルとして活用していくことになります。

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新規のD2Cブランドの場合は、デジタル上でプロモーションを行い、生活者のライフスタイルに合わせて世界観を伝えて、メーカーと顧客の関係を構築する基盤を作ります。その後で、売り場の面をとるために小売店で販売してもらいます。

具体的な事例を紹介しましょう。一つはユニリーバです。同社は2016年、「Dollar Shave Club」というD2Cブランドを買収しました[6]。買収後しばらくはWeb上でのみ販売し、関係構築をしましたが、あるタイミングで小売店での販売を開始します。この時、ユニリーバの製品ではなく、Dollar Shave Clubとして販売しています。同様に、P&Gも「Walker & Company」というD2Cブランドを買収し、最初はWeb上での販売に力を置き、後から店舗での展開をしています[7]

おそらく両社は売り上げを積み重ねるためというよりも、D2Cのノウハウを吸収し、自社の既存や新規ブランドに応用していくことを目的に買収していると考えられます。

一方、既存ブランドの場合はすでに小売店で販売されているものの、メーカーと顧客の直接の関係ができていません。そこで顧客との関係を作るための工夫として、新たなサービスやサブスクリプション型サービスを構築して、顧客接点を作りデータを蓄積するというやり方があります。

例えば、トヨタは2019年、サブスクリプション型のKINTOの提供を開始し[8]、リンナイはオンラインのみで申し込めるカスタマイズできるビルトインコンロの販売をしています[9]。いずれもオンライン販売、サブスクリプションで顧客との関係を作っています。


顧客との関係を深め、小売店との関係をより強固にするためには

メーカーが小売店との関係を維持したまま、顧客との関係構築を進めるにはどうしたらよいでしょうか。

顧客との関係構築については、まずは売り上げだけでなく、ストーリーや世界観への共感を評価軸としたエンゲージメント指標を作ることです。ブランドパーパスをブレイクダウンしていくと、顧客体験を通した世界観の伝達やエンゲージメント強化に落とし込めます。それはさらに2つの指標に分けられます。一つは、経済的貢献である購入の指標で、「新規購入」「リピート購入」「購入金額」「頻度」などがあります。もう一つは、価値的貢献として世界観の共感や理解があり、指標としては「ストーリー閲覧数」「SNSフォロワー数」「投稿数」「ボランティア参加」などになります。

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経済的貢献と価値的貢献を指標に落とし込んだら、それをもとに顧客ステージを設定します。さらに、カテゴリごとに顧客ステージを決められるようにデータセグメントを作成し、顧客をそのいずれかに格納していきます。

セグメントに分けた顧客データは、BIツールで可視化したり、MA(マーケティングオートメーション)に連携して、顧客ステージを上げるためのナーチャリングを行えるようになります。

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一方、D2Cを進めながら小売店との関係を維持するためには、営業担当者を通じて、デジタルで捉えたファクトを小売店に提供していくことが必要です。D2Cで得た顧客データをセグメントに分類して分析し、営業が小売店に対しその結果を共有します。小売店が売り上げを上げるための情報を提供することで関係を構築します。

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こうしたことを可能にしていくためには、収集したデータを統合管理し、セグメントに分けて活用できるようなシステム設計が必要です。

収集したあらゆる顧客データはCDP(顧客データ基盤)に格納し、データを統合します。さらにカテゴリと顧客ステージで顧客データを分類し、BIツールで可視化できるようにします。最終的には、そのデータをMAに連携しマーケティング施策に落とし込む、コールセンターの応対の精度を上げる、DSP(Demand-Side Platform)に連携して広告配信を最適化するといった活用、また分析データを営業担当が小売店に提供するといった活用を行います。

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事例:アパレルメーカーでのデータ活用

最後にあるアパレルメーカーの事例を紹介します。このアパレルメーカーでは、購買行動や行動データ以外の顧客データの統合ができていないために、あるべき顧客体験が提供できていないという課題がありました。そこで、人単位でデータを結びつけながら、カスタマージャーニーの見直しを行うことになりました。

部署横断でキーマンを集めてワークショップを開催し、カスタマージャーニーの整理、顧客体験を設計しました。これまでは購入やクロスセルなどの視点からしか考えられていなかったところ、本当のロイヤルカスタマーは購入だけでなく、その後、愛用しリサイクルまでしてくれる、環境的貢献までしてくれる人ではないかという結論になりました。

そこで顧客に紐づくデータを統合して顧客の見える化を行い、ニーズやライフステージにあわせた商品やサービスの提供をしながら、消費者のコミュニティを拡大していくことになりました。

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顧客とコミュニケーションをとるタイミングを決めるにあたっては、経済的貢献と価値的貢献の指標を活用しました。経済的貢献では、新規購入した人にリピード購入を促進するタイミング、価値的貢献ではメンテナンスやリサイクルのタイミングでメッセージを送ります。どのデータがあればそのタイミングがわかるのか、そのデータはどこにあるのかまで落とし込んでいきました。

IT部門の人にもワークショップに入ってもらいながら、どういうアーキテクチャを組むのか、データソースのどこに必要なデータがあるのかをブレイクダウンして、どんなデータソースが必要なのか落とし込んでいきました。

集めたデータソースをCDPでどうやって連携していくのか、何を顧客IDにして「見える化」するのかを決めて、カテゴリ×顧客ステージでデータマートに格納し、MAやBI、広告での連携、さらに外部と連携して、実際の施策を行い、理想のカスタマージャーニーを実現させていきます。

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まとめ:メーカーが対応していくべきデータマネジメント

本記事では、メーカーにおけるD2Cの進め方、それを支えるデータマネジメントの手法について解説しました。これからはメーカーであっても顧客との関係を作り、小売店とも関係を維持しながら、施策を展開していく必要があり、そのためにはデータ基盤の構築が必須です。

電通デジタルでは、広告からCRM領域分野までしっかりと施策立案を行い、さらにCDPのようなデータプラットフォームを軸に、周辺領域を含めたプラットフォームデザインまでを担当できます。カスタマージャーニー設計、データ活用、データ基盤の構築などにご興味をお持ちの方は、小売業界への豊富なサポート実績を持つ電通デジタルへ、お気軽にお問い合わせください。


●脚注

1. ^ "Mattress Firm has filed for bankruptcy and could close up to 700 stores"Business Insider. (2018年10月5日)2022年6月13日閲覧。

2. ^ Casper 公式Webサイト

3. ^ Woolly Magazine - Casper

4. ^ "How Casper Became a $100 Million Company in Less Than Two Years". Inc.(2016年2月25日)2022年6月13日閲覧。

5. ^ "ウォルマート 、新家具ブランドに垣間見る オンライン戦略". DIGIDAY.(2019年2月20日)2022年6月23日閲覧。

6. ^ "Unilever buys Dollar Shave Club: desperate or strategic?". IMD.(2016年7月26日)2022年6月13日閲覧。

7. ^ "Procter & Gamble acquires Walker & Company, Tristan Walker will remain as CEO". TechCrunch.(2018年12月12日)2022年6月13日閲覧。

8. ^ "トヨタがクルマの定額サービス 月額4万円台から". ITmedia ビジネスオンライン.(2019年2月5日)2022年6月23日閲覧。

9. ^ "「コンロをオンラインで買う」という新しい体験をどう広げるか". Markezine.(2021年2月4日)2022年6月23日閲覧。

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